コロナで変わる議決権行使―ROE基準など一時停止、「有事こそ開示」との声も

 運用会社大手が新型コロナウイルスの感染拡大を受けた議決権行使の方針を相次ぎ発表している。国内公募投信の運用大手10社中8社が22日までにホームページで方針を明らかにした。

 多くは感染拡大への警戒が続く中で6月開催の株主総会について配慮した対応を行うとするものだ。日興アセットマネジメントは投資先企業の株主や企業関係者の健康・安全を最優先として、開催時期や形式を個々に判断するのが適切としたほか、三井住友DSアセットマネジメントは状況に応じて株主総会の延期や2段階方式での開催等に柔軟に応じるとしている。

 議決権行使の基準についての言及も目立つ。投資先企業が置かれた状況を考慮し、議案反対の基準について一時停止または柔軟に対応するというものだ。野村アセットマネジメントは、事業の継続性が足元は最優先との判断に基づき、低ROE(株主資本利益率)や株主還元不足を理由として取締役選任や剰余金処分の議案に反対する基準を当面停止するとした。また、手元資金の効率的な活用を企業に求める運用会社が多い中、大和アセットマネジメントは有効な資金活用に関する基準について一律の適用を見合わせ、状況を勘案し柔軟に対応するとしている。

 米国の議決権行使助言会社ISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)も日本企業について感染拡大の業績への影響が大きく、ROEが資本効率を評価する上で適切な指標でなくなっていると指摘。過去5期の平均ROEが5%を下回り、且つ改善が見られない企業の経営トップ再任議案に反対するとの基準を一時停止すると発表している。

 また、コロナ危機への対応、さらには「ポストコロナ」社会を見据えた今後の取り組みを重視するとの方針も多く見られた。アセットマネジメントOneは「短期的な業績への影響にとどまらず、キャッシュフローの配分や事業運営の中で、従業員の安全や取引先、地域社会についてどのような配慮や働きかけを行ったのかについて可能な限りの開示を求める」とした。

 東京海上アセットマネジメントは、「情報開示の重要性を有事にこそ訴えたい」とした上で、(1)危機対応に関するリスク情報(2)企業にとって最重要である人的資本をいかに守っているか(3)企業の生産や販売の現場がどのようになっているか(4)有事だからこその社会的価値創造まで視野に入れた活動を行っているか――について開示を期待するとしている。

 ESG(環境・社会・企業統治)の観点を考慮した投資原則で世界の3000以上の金融機関が署名する「PRI(国連の責任投資原則)」では、コロナ危機への対応として「7つの行動」を呼びかけている。その中で、従業員の安全確保などの危機管理が不十分な企業や、平時であれば問題視されるはずだが今回の危機で見過ごされていた問題を抱える企業との対話を行うことが必要だと指摘。例えば、宅配サービスの需要増加は配送センターの従業員や配達員の労働環境の悪化につながる恐れがあるとした。

 金融庁が機関投資家に責任ある投資行動を求める「日本版スチュワードシップ・コード」は3月に再改定が行われ、投資先企業との対話においてESGを含む事業の持続可能性の観点を考慮すべきとの内容が盛り込まれた。感染拡大を受けた行動変容は一時的ではなく、新たな消費行動が及ぼす環境への影響や労働環境の変化など、ESGの多くの課題に関しても企業との対話を通じて中長期で取り組む重要性が高まっていると言えるだろう。
提供:モーニングスター社
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