不安定な株価を尻目に安定収益、ヘッジファンド「ダブル・ブレイン」に資金流入継続

 新型コロナウイルスのパンデミックは、コロナ・ワクチンの接種拡大によって克服されるものと期待されていたが、感染力が強い「デルタ株」という変異種の出現によってパンデミックの収束=世界経済の正常化の見通しが不透明になってきた。このため、一時は経済活動の正常化を見越して米国の金融正常化の時期を模索していた市場も、改めて、コロナ・デルタ株の影響を見極めようという動きになってきた。株価からは一時の上昇力が削がれ、景気悪化の経済指標などが出ると大きく下落するようなこともある。このような不安定な株価の動きを尻目に、ヘッジファンドの一部の好調さが目を引く。2020年3月のコロナショックから株価が大きく値上がりした後だけに、リスクヘッジの手段として安定したパフォーマンスを残しているヘッジファンドに一部の資金が向かっている。

 野村アセットマネジメントが設定・運用している「ダブル・ブレイン」に今年3月以降、資金流入が継続している。6月、7月と2カ月連続で月間60億円以上の資金流入になっている(7月の流入額は推計値)。基準価額も緩やかな上昇を続け、純資産残高は今年2月末の1528億円から、8月2日には1992億円になった。同ファンドは、ファンド オブ ザ イヤー2020オルタナティブ型 部門で最優秀ファンド賞を受賞している。

 同ファンドは、英国のヘッジファンド運用会社マン・グループが運用する2つの運用戦略に投資するファンド。常時、株式や債券、コモディティなど500以上の市場を使ってロング(買い持ち)とショート(売り持ち)を併用して絶対収益を追求する「ダイバーシファイド戦略」と、リスクパリティで安定した収益をめざす「ターゲットリスク戦略」によって、トータルで安定した収益をめざす。ショートポジションがとれる「ダイバーシファイド戦略」を持つことによって、市場の下落時に基準価額の下落を抑える運用が可能になる。この市場下落時に強い性格が出たのが2020年3月のコロナショックの時だった。世界株式(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス:配当込み・円ベース)が1カ月で15%下落する中、同ファンドの基準価額の下落率は2.63%にとどまった。コロナショックをほぼ横ばいで乗り切った後、基準価額が緩やかに上昇している。

 株価が不安定な値動きになる中で、従来は安定的な値動きが期待できる国債などの債券ファンドとの組み合わせが使われてきた。ただ、世界的に債券の利回りが低下してきている中で、債券投資では魅力的な収益が得られにくくなっている。2018年11月末を100とすると、2021年7月末までに世界株式インデックス(円ベース)は52.81%上昇しているが、世界国債インデックス(円ベース)は11.69%の上昇にとどまる。7月末を起点とした過去1年間のリターンも、世界株式インデックスは41.06%もあるが、世界国債インデックスは2.57%しかない。国際的なインフレ率を加味し、かつ、ファンドとしての運用コストを考えると実質的なリターンが得られているか微妙な水準だ。国債等債券ファンドに代わる安定運用商品が求められるゆえんだ。

 「ダブル・ブレイン」のようなヘッジファンドは、安定したパフォーマンスを維持しつつ、債券以上のパフォーマンスが期待できる投資商品として価値がある。2018年11月末から21年7月末までのパフォーマンスはプラス35.42%であり、7月末基準で過去1年間のリターンも16.44%と世界国債ファンドを大きく上回っている。また、リターンの水準では、世界株式インデックスに適わないものの、下落時の耐性が強いという安心感がある。

 もっとも、ヘッジファンドであれば何でもよいというわけではない。実際に、モーニングスターインデックスの「ヘッジファンド型」のパフォーマンスを振り返ると、世界国債インデックスよりも低いリターンになっている。ヘッジファンド等の選定にあたっては、それぞれのファンドの実質的な運用者の実力や過去のパフォーマンス等についてしっかりと調べ、その運用成績の性格等についても理解した上で運用に取り入れる必要がある。
提供:モーニングスター社
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