ティー・ロウ・プライスが日本株式に強気の理由=日本株式戦略ポートフォリオ・マネジャーの着眼点

 日本株は世界景気の浮沈に敏感に反応し、コロナワクチンの浸透で世界経済が回復に向かう2021年は絶好の投資タイミングだ――ティー・ロウ・プライスの日本株式戦略ポートフォリオ・マネジャーのアーシバルド・シガネール氏は1月28日に開催したオンラインセミナーで日本株式に対する強気の姿勢を強調した。シガネール氏は、「日本企業は、アナリストが思っているよりも急ピッチで利益回復する可能性があり、また、自社株買いなど日本企業のトランスフォーメーションも加速することから、今年は特に魅力的な存在になる」と力強く語っている。同社は日本株戦略において機関投資家の資金も含め約6000億円を運用している。

 シガネール氏が注目するグローバルな工業生産は、中国経済の復調と半導体産業がけん引役となり、既に新型コロナのパンデミック前の水準に回復している。ワクチンの浸透によって現在のコロナ感染拡大による人の移動制限が解除されれば、回復が遅れているサービス産業の業績も急速に回復すると期待される。ワクチンの浸透が期待通りに進むのか不透明な部分もあるが、ワクチン接種によって感染拡大を抑えられるという効果は確認されているため、向こう1年くらいの間に世界経済がパンデミック前の状態に復するという期待は強い。そして、日本株はグローバル経済の動向に非常に強い影響を受ける傾向があり、「昨年10月以降に、日本の株価が大きく上昇したのはワクチンの接種開始のニュースが出て、世界経済の回復期待が高まったことが後押しした」と振り返る。

 また、「現在の日本の株価のバリュエーションは、TOPIX(東証株価指数)ベースで来期予想PERが16倍程度、米国の19倍などと比較して割安な水準にあることも、日本株式に強気になれる理由の1つ」(シガネール氏)とした。

 ただ、昨年1年間は世界経済が大きなマイナス成長に落ち込む中で株高が継続した。これは、株式市場がワクチンの開発などによって経済が正常化することをある程度織り込んだ上での株高といえ、企業業績の回復も織り込んで割高な水準まで株価が上昇したものもある。したがって、日本株に強気の見通しを表明しているシガネール氏も「市場全体がどのように動くかということではなく、銘柄1つ1つの業績見通しを精査して選択して投資することが重要」とする。

 シガネール氏は、昨年の6月以降にコロナ禍で勝ち組のディフェンシブ銘柄群から、グローバル経済の成長の恩恵を受ける自動車やFA(ファクトリー・オートメーション)の関連企業やコロナ負け組といわれる小売りやサービスといった内需関連に切り替えを実行し、昨年末の株高によって優位な成績につなげたという。同社の日本株運用戦略コンポジットは、過去1年間でTOPIXがドル建てで17.67%プラスだったことに対し、同社のコンポジットは報酬控除後で25.27%という結果を残している。21年の市場も、引き続き、世界景気の拡大で恩恵を受ける企業群とコロナで大きく業績が落ち込んだ企業の復活に妙味があるとの見方だ。

 一方、シガネール氏は、日本企業のガバナンスが大きく改善されてきている点にも注目している。「世界の投資家は、日本企業の収益率の低さや脆弱なガバナンス基準、また、不十分な株主還元などのイメージから日本株投資を避ける傾向にあったが、過去10年間に日本企業のガバナンス改革は大きな進歩を遂げた。経営の効率性についても業界再編による過当競争の是正やコア事業への集中といった改革が進捗している。既に、日本企業のROEは欧州企業にキャッチアップし、欧州企業を上回るようになっている」と、日本企業の変化も評価要因とする。

 もっとも、想定通りに世界経済の回復が進まないことはリスクになる。「ワクチンの浸透が思うように進まない、米中関係の貿易摩擦が拡大するなどのリスクもある。また、コロナ禍がそうであったように、想定もしていないリスクが市場をかく乱することもある。運用者としては、常にリスク管理に気を配りながら運用を進めることが肝心だ」と語っていた。
提供:モーニングスター社
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