401k(米確定拠出年金)の運用資金が政争の道具に、海外株運用のベンチマーク変更に米政権が待った
米連邦職員や軍人が加入する401k(確定拠出年金)である連邦公務員向けTSP(Thrift Savings Plan)の運用ファンドの入れ替えが、米トランプ政権の横やりによって宙に浮いてしまった。TSPを運営・管理する米連邦退職貯蓄投資理事会(FRTIB)は13日に声明を出し、「Iファンドのベンチマークの変更を見送る」と発表した。2017年にベンチマーク変更を決定してから時間をかけて移行作業を進め、「2020年の年央」としてきた変更期限を間近にしての延期は、異例の判断といえる。制度加入者の利益に適う行動ができるのか、今後の推移が注目される。
米国は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)において、世界でもっとも多くの感染者を抱えることになったが、政権の対応策への批判が高まるにつれて、米政権は「中国の責任論」を声高に主張し始めている。公務員の確定拠出年金の運用商品の入れ替えについて、トランプ政権として異議を唱えたのは、今回の入れ替えが「中国を利する」と判断されたことによるのだろう。
TSPの運用先は、ライフサイクルファンドを含む6つのファンドがある。ライフサイクルファンド(L)は、その他5つのファンドの要素を全て含んだバランス型ファンドで、投資期間が長い若い世代では株式などリスク資産を多く、退職年齢が近づくと米国債などを中心として安定運用が自動的に割り当てられる。Gファンドは、米国債で運用する安定運用ファンド、Fファンドは債券インデックスファンド。Cファンドは「S&P500」インデックスファンド。Sファンドは米国小型株インデックスファンドだ。
そして、今回問題になっているIファンドが米国以外の海外株式ファンドで、ベンチマークは「MSCI EAFE」になっている。MSCI EAFEは、アメリカとカナダを除く先進国21カ国の株式に投資する。20年4月末現在の国別投資比率は、日本に26%、英国に14.96%、フランスに10.58%、スイスに10.45%、ドイツに8.5%などとなっている。
このIファンドのベンチマークを「MSCI EAFE」に替えて、「MSCI ACWI ex USA」を新たに採用する計画だった。新たな指数は、アメリカを除く22の先進国と26の新興国の株式が投資対象になる。20年4月末現在の国別投資比率は、日本が16.97%、中国が11.15%、英国が9.77%、フランスが6.91%、スイスが6.83%などとなる。大きな違いは、中国が11%超と比較的大きな組み入れ対象になることだ。具体的な組み入れトップ10銘柄でも、トップに中国のアリババ、第3位にテンセントという中国企業が入っている。
Iファンドは、TSPの運用商品の中では最も選択が少なく、現在、約500億ドル(約5兆4000億円)が運用されているといわれる。この資金が「MSCI ACWI ex USA」に移されると、11%強に相当する50億ドル強(5500億円相当)の資金が新たに中国に投資されることになる。また、より多くの資金が運用されているライフサイクルファンドでもIファンドへの投資が一部行われており、ベンチマークの変更に伴う中国への投資金額は、50−60憶ドルより大きくなる。米政権では、米中貿易摩擦で問題視してきた中国による知的財産の強奪問題、南シナ海をめぐる紛争、人権問題などに加えて、「新型コロナウイルス・パンデミックへの責任」もある中国に、軍人を含めた国家公務員の資金が向かうことを問題視しているようだ。
FRTIBとしては、2017年に海外株式ファンドのベンチマークを入れ替えることを決定した際には、先進国で構成される「MSCI EAFE」よりも、新興国を含めた「MSCI ACWI ex USA」の方がより資産の分散が図れて加入者にメリットがあるという判断をしたはずだ。米国の401kでは、海外株式投資のベンチマークとしては「MSCI ACWI ex USA」が一般化している。FRTIBは、政権からの横やりに対して、「defer(延期する)」という表現を使って返答した格好になっている。「abort(中止する)」などの決定的な言葉を使っていない。この問題が、どのような決着をみせるのか注目していきたい。
提供:モーニングスター社
米国は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)において、世界でもっとも多くの感染者を抱えることになったが、政権の対応策への批判が高まるにつれて、米政権は「中国の責任論」を声高に主張し始めている。公務員の確定拠出年金の運用商品の入れ替えについて、トランプ政権として異議を唱えたのは、今回の入れ替えが「中国を利する」と判断されたことによるのだろう。
TSPの運用先は、ライフサイクルファンドを含む6つのファンドがある。ライフサイクルファンド(L)は、その他5つのファンドの要素を全て含んだバランス型ファンドで、投資期間が長い若い世代では株式などリスク資産を多く、退職年齢が近づくと米国債などを中心として安定運用が自動的に割り当てられる。Gファンドは、米国債で運用する安定運用ファンド、Fファンドは債券インデックスファンド。Cファンドは「S&P500」インデックスファンド。Sファンドは米国小型株インデックスファンドだ。
そして、今回問題になっているIファンドが米国以外の海外株式ファンドで、ベンチマークは「MSCI EAFE」になっている。MSCI EAFEは、アメリカとカナダを除く先進国21カ国の株式に投資する。20年4月末現在の国別投資比率は、日本に26%、英国に14.96%、フランスに10.58%、スイスに10.45%、ドイツに8.5%などとなっている。
このIファンドのベンチマークを「MSCI EAFE」に替えて、「MSCI ACWI ex USA」を新たに採用する計画だった。新たな指数は、アメリカを除く22の先進国と26の新興国の株式が投資対象になる。20年4月末現在の国別投資比率は、日本が16.97%、中国が11.15%、英国が9.77%、フランスが6.91%、スイスが6.83%などとなる。大きな違いは、中国が11%超と比較的大きな組み入れ対象になることだ。具体的な組み入れトップ10銘柄でも、トップに中国のアリババ、第3位にテンセントという中国企業が入っている。
Iファンドは、TSPの運用商品の中では最も選択が少なく、現在、約500億ドル(約5兆4000億円)が運用されているといわれる。この資金が「MSCI ACWI ex USA」に移されると、11%強に相当する50億ドル強(5500億円相当)の資金が新たに中国に投資されることになる。また、より多くの資金が運用されているライフサイクルファンドでもIファンドへの投資が一部行われており、ベンチマークの変更に伴う中国への投資金額は、50−60憶ドルより大きくなる。米政権では、米中貿易摩擦で問題視してきた中国による知的財産の強奪問題、南シナ海をめぐる紛争、人権問題などに加えて、「新型コロナウイルス・パンデミックへの責任」もある中国に、軍人を含めた国家公務員の資金が向かうことを問題視しているようだ。
FRTIBとしては、2017年に海外株式ファンドのベンチマークを入れ替えることを決定した際には、先進国で構成される「MSCI EAFE」よりも、新興国を含めた「MSCI ACWI ex USA」の方がより資産の分散が図れて加入者にメリットがあるという判断をしたはずだ。米国の401kでは、海外株式投資のベンチマークとしては「MSCI ACWI ex USA」が一般化している。FRTIBは、政権からの横やりに対して、「defer(延期する)」という表現を使って返答した格好になっている。「abort(中止する)」などの決定的な言葉を使っていない。この問題が、どのような決着をみせるのか注目していきたい。
提供:モーニングスター社