投信最大手バンガードのCIOが語る投資戦略(1)―「新興国めぐる熱狂には要注意」

 国内で購入可能なインデックスファンドやETF(上場投資信託)のラインアップが充実し、長期の分散投資を低コストで可能にする手段として一段と注目を集めている。世界最大の投信会社で、インデックスファンドでトップシェアを誇るバンガード・グループのガス・ソーターCIO(最高投資責任者)がこのほど来日。モーニングスターの朝倉智也代表取締役COO(最高執行責任者)がソーター氏に世界経済の今後の見通しとバンガードの投資戦略などを聞いた。インタビューでの主なやりとりは以下の通り。

●「新興国のインフレリスク、先進国に波及しない」

 ――先進国の経済が低迷する一方、中国などの新興国が台頭し、いわゆる「パラダイムシフト」が起きている。世界経済の見通しを聞きたい。

 「確かに世界経済の成長には不均衡なところもみられるが、グローバル経済全体はかなり回復しつつある。特に中国を含む新興国では堅調な成長が続き、同時に先進国でも米国やヨーロッパ、日本などで景気回復の兆候が出ている。当社では、世界経済の状況は10年後半よりも今四半期(11年1−3月期)や11年前半にさらによくなると予想。11年後半は前半よりも成長するとみている」

 ――原油や穀物などの資源価格が上昇を続けるリスクに関してはどのように考えているか。

 「中国など一部の新興国でインフレリスクが高まり、中国は利上げなどを通じてインフレを抑制しようと努めている。経済成長が著しい国ではインフレ圧力が強くなっているが、短期的にはこうした新興国のインフレリスクが先進国に波及するとは考えていない」

●先進国、新興国市場への分散投資が重要

 ――現在のような不透明な環境のなか、日本の投資家は先進国と新興国の運用比率といったアセットアロケーションをどのように決定するべきか。

 「アセットアロケーションは投資を決定するうえでの重要事項の1つだ。特に株式、債券、そしてキャッシュのような流動性の高い資産をどのように配分するかに気をつけたい。『ホームカントリーバイアス』(自国市場に偏った投資をすること)という考え方があるが、日本の投資家ならば日本株を一定割合持つのがよいだろう」

 「一方で、グローバルな分散投資も大切だ。他の先進国、新興国市場にも資産を分散する必要がある。ただ、多くの人が現在、新興国市場に熱狂し、急成長を背景に高い投資リターンが狙えると思い込んでいることには注意したい。私は新興国への投資リターンが際立って高いという主張に必ずしも納得していない」

 ――世界的にインデックスファンドの高いシェアを持つバンガードとして、今後は新興国市場のファンドを多く設定するのか、あるいは違った方向に力を入れるのか。商品戦略を聞きたい。

 「当社は新興国のファンドをさらに提供することを考えている。いくつか方法があるが、1つは地域別のファンドだ。例えば、太平洋地域やラテンアメリカ、ヨーロッパの新興国に投資するファンドが想定される。場合によっては特定の国を対象にしたファンドを設定するかもしれないが、こうしたファンドはその国の投資家向けになるだろう」

●日本でのETF提供をさらに拡大

 ――バンガードは日本において、低コストの優れた外国籍ETFを9本提供している。インデックスファンドとETFをどのように使い分ければよいか、アドバイスをいただきたい。

 「多くの投資家にとってETFの方が便利だ。上場していないインデックスファンドに直接投資するのを好む顧客がいるのも確かだが、米国では証券会社やファイナンシャルアドバイザー、銀行を通じて証券取引所に上場されているETFが購入可能で、利便性が高い」

 ――今後も日本でETFの提供をさらに拡大していく予定か。

 「その通りだ。ラインアップ全体を考慮し、どのようなETFを日本で追加するかを検討している。また、アジアの投資家向けに新しいファンドを設定することも考えているが、これは日本の投資家にとっても適した商品になると考えられる」
提供:モーニングスター社
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